10月
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土
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概要:タッチパネルやジェスチャー操作の普及により、インタフェース・デザインは大きな変化を迎えている。しかし誰もがIT機器を利用するようになった今、インタフェース・デザインを維持することもまた求められており、このジレンマを解消できる者だけが今後長く生き残っていく。 Google+を利用している人もそうでない人も、そのデビューにあわせてGoogleの検索ページやGoogleカレンダーなどのデザインが変わったことに気付いたはずだ。ページの上部には暗い色のメニューバーが現れ、Googleカレンダーのデザインはあっさりフラットなものになった。Google+のことを知らない人は、ある日とつぜん今まで使っていたウェブサービスのデザインが変わったことで、大いに驚いたはずである。次はGmailがGoogle+と連動したデザインに生まれ変わるという噂だ。
おなじころ、mixiではマイミクの一覧画面に実名が(あらかじめ登録してあれば)表示されるようになった。かつては実名主義であるがゆえの安全性を謳っていたmixiも、今では実名の公開範囲を狭められるようになっており、実名SNSとしての特長は薄れつつある。しかしマイミク関係になればお互いの実名を確認できるという仕様は当初から変わっておらず、今回の変更では、従来マイミクのプロフィール画面だけで確認できた実名を、一覧でも見られるようになった(しつこいようだが、ちゃんと実名を登録していればの話)。しかし、この変更は大きな混乱を招き、さまざまな批判でもって受け止められた。誤解に基いた批判も少なくないが、デザインを変更することの難しさを感じる事例である。
優れたデザインの製品・サービスを手がけるIT企業の例として、いつも名前が挙がるのがアップルである。しかし同社の製品はこの数年、あまり変化していない。いろいろあってディスプレイ一体型に辿りついたiMac、アルミユニボディのMacBook Pro / Air、全面タッチパネルのiPhoneやiPod touch、iPhoneをそのまま巨大化したようなiPadなど、アップルのデザインは数年前から維持を続けているように見える。iPhoneやiPadの基本ソフトであるiOSも、登場以来もう何年も基本的なデザインに手が加えられていない。さまざまな新機能を導入したMac OS Xの最新バージョン”Lion”は例外だが、面白いことにその評判は芳しくない。思いきってインタフェースを刷新したFinal Cut Pro Xについては、さまざまな批判を浴び、わざわざ「これまでのバージョンを使い続けることもできる」という弁明まで公開しているほどだ。
私は有名なデザイン学者であるドン・ノーマンに憧れ、ユーザーインタフェースを学ぼうと情報学を専攻した。しかし大学で研究室配属のときに、ようやく自分の所属していた大学にユーザーインタフェース系の研究室がない事実に気付いた。2003年のことだ。私はこう思うことにした:「ユーザーインタフェース研究の時代は終わったのだ。PCはWindowsが支配しており、良くも悪くもマイクロソフトがデザインを牛耳っていて、いまさら新しいインタフェースを考える意味などない」。
私の考えは間違っていた。ここ数年、ユーザインタフェースにとっては激動の時代が訪れている。特に大きな動きはふたつある。ひとつにはAjaxやHTML5などの技術が普及し、静的なウェブページがクラウドベースのウェブアプリとなったこと。もうひとつはモバイル分野でタッチ操作が大々的に導入され、アプリ中心設計のスマートフォンが普及したことだ。これまでも、たとえばマイクロソフトがOfficeにまったく新しいリボンUIを導入したことで、多くのユーザが戸惑うということはあった。筆者自身、先日Ubuntu 11.04を導入したらデスクトップ環境が新しい”Unity”となって、多いに混乱したばかりだ。とはいえデスクトップソフトウェアでは、極端な話「アップデートしない」という選択肢がある。いまもWindows XPを利用し続けている人がどれほど多いことか(それもクラシックテーマで)。しかしウェブアプリやモバイルアプリでは半自動的に更新が行われる。ユーザの意図せぬ形でデザインやインタフェースが変更されてしまうこともしょっちゅうである。
インタフェース変革の時代はまだまだ続くだろう。マイクロソフトはWindows 8でWindows Phoneと同じタイルベースのインタフェース”Metro”の採用を予告している。モーションセンサKinectもオフィスツール向けに取り込まれている予定だ。また、GoogleはAndroidの新バージョン”Ice Cream Sandwich”でまたしてもデザインの刷新を行う見込みである。アップルも不評の”Lion”を洗練させるために手を加えていくだろう。
企業は新しいサービスを次々に発表している。そして多くの人は新しいサービスを試したがっている。しかしインタフェースの変化は好まれない。ここにジレンマが存在する。iOSでいえば、かつて「ホーム画面に戻る」ためだけにあったホームボタンは、今ではマルチタスク切り替えなど複数の機能を割り当てられ、デザイン上の混乱を招いている。それでも、アップルはひとつのホームボタンを維持していくだろう。ひとつのマウスボタンを長いあいだ維持したように。彼らはソフトウェアの混乱を無視し、ハードウェアの統一性を維持した。それも一つの道である。
混乱といえば、ジェスチャー操作の流行もデザインの混乱を招く原因だ。ジェスチャーは慣れている人には便利だが、知らない人にはボタンのようなとっかかりがなにもない。当たり前かもしれないが、いまほど老若男女、大勢の人がIT機器・ITサービスを触れる時代はなかった。これまでならば許されたような不用意なインタフェース・デザインの変更は、今後多くの批判を招くようになるだろう。mixiや”Lion”、Final Cut Pro Xに対する反発は、そのはじまりかもしれない。
ひとつの解決策として、今後インタフェースが機能と切り分けられるということが考えられる。たとえばTwitterにはAPIを利用した無数のクライアントがあって、利用者はそのうち好きなものを選ぶことができる。たとえばスマートフォンでも、シンプルで代々変わらないインタフェースと、マニア向けで次々と新しい機能を組み込んだインタフェースが用意されるようになるかもしれない。これはよくある「ホーム画面をシンプルにするラウンチャー」などとはまったく異なり、シンプル化はOS全体を通じてすべてのアプリで実現されなければならない。そして、何年もその使い勝手を維持していく必要がある。
それだけのことを出来る企業やサービスはそう多くないかもしれない。しかし、出来る者だけが生き残っていくだろう。30年後のコンピュータは、もしかすると今のデザインとそれほど変わらないのではないか。そしてその細部を決まるのは、これから数年の勝負かもしれない。
考えられるアイデア:
インタフェースの保守・管理、現状のインタフェースを維持しながら新しい機能をどう組み込むかは、今後大きなテーマとなるだろう。支援業者の登場も求められる。
スマートフォンやタブレットはすでに十分複雑であり、今後さらなる普及を目指すためには、統一感を持ちながらシンプル化するソリューションが必須である。
インタフェース・デザイン理論は多数あるが、タッチパネルやジェスチャなどを想定した分かりやすい一大理論の登場は大いに期待される。
関連情報
文中のmixiの実名表示トラブルは、当初ごく簡単な告知しかなかったため、大きな混乱を招いた。
Final Cut Pro Xをめぐる批判はEngadgetの記事に詳しい。
iPhoneのホームボタンが担う機能の混乱については一覧が作成されている。
写真:stratic
おなじころ、mixiではマイミクの一覧画面に実名が(あらかじめ登録してあれば)表示されるようになった。かつては実名主義であるがゆえの安全性を謳っていたmixiも、今では実名の公開範囲を狭められるようになっており、実名SNSとしての特長は薄れつつある。しかしマイミク関係になればお互いの実名を確認できるという仕様は当初から変わっておらず、今回の変更では、従来マイミクのプロフィール画面だけで確認できた実名を、一覧でも見られるようになった(しつこいようだが、ちゃんと実名を登録していればの話)。しかし、この変更は大きな混乱を招き、さまざまな批判でもって受け止められた。誤解に基いた批判も少なくないが、デザインを変更することの難しさを感じる事例である。
優れたデザインの製品・サービスを手がけるIT企業の例として、いつも名前が挙がるのがアップルである。しかし同社の製品はこの数年、あまり変化していない。いろいろあってディスプレイ一体型に辿りついたiMac、アルミユニボディのMacBook Pro / Air、全面タッチパネルのiPhoneやiPod touch、iPhoneをそのまま巨大化したようなiPadなど、アップルのデザインは数年前から維持を続けているように見える。iPhoneやiPadの基本ソフトであるiOSも、登場以来もう何年も基本的なデザインに手が加えられていない。さまざまな新機能を導入したMac OS Xの最新バージョン”Lion”は例外だが、面白いことにその評判は芳しくない。思いきってインタフェースを刷新したFinal Cut Pro Xについては、さまざまな批判を浴び、わざわざ「これまでのバージョンを使い続けることもできる」という弁明まで公開しているほどだ。
私は有名なデザイン学者であるドン・ノーマンに憧れ、ユーザーインタフェースを学ぼうと情報学を専攻した。しかし大学で研究室配属のときに、ようやく自分の所属していた大学にユーザーインタフェース系の研究室がない事実に気付いた。2003年のことだ。私はこう思うことにした:「ユーザーインタフェース研究の時代は終わったのだ。PCはWindowsが支配しており、良くも悪くもマイクロソフトがデザインを牛耳っていて、いまさら新しいインタフェースを考える意味などない」。
私の考えは間違っていた。ここ数年、ユーザインタフェースにとっては激動の時代が訪れている。特に大きな動きはふたつある。ひとつにはAjaxやHTML5などの技術が普及し、静的なウェブページがクラウドベースのウェブアプリとなったこと。もうひとつはモバイル分野でタッチ操作が大々的に導入され、アプリ中心設計のスマートフォンが普及したことだ。これまでも、たとえばマイクロソフトがOfficeにまったく新しいリボンUIを導入したことで、多くのユーザが戸惑うということはあった。筆者自身、先日Ubuntu 11.04を導入したらデスクトップ環境が新しい”Unity”となって、多いに混乱したばかりだ。とはいえデスクトップソフトウェアでは、極端な話「アップデートしない」という選択肢がある。いまもWindows XPを利用し続けている人がどれほど多いことか(それもクラシックテーマで)。しかしウェブアプリやモバイルアプリでは半自動的に更新が行われる。ユーザの意図せぬ形でデザインやインタフェースが変更されてしまうこともしょっちゅうである。
インタフェース変革の時代はまだまだ続くだろう。マイクロソフトはWindows 8でWindows Phoneと同じタイルベースのインタフェース”Metro”の採用を予告している。モーションセンサKinectもオフィスツール向けに取り込まれている予定だ。また、GoogleはAndroidの新バージョン”Ice Cream Sandwich”でまたしてもデザインの刷新を行う見込みである。アップルも不評の”Lion”を洗練させるために手を加えていくだろう。
企業は新しいサービスを次々に発表している。そして多くの人は新しいサービスを試したがっている。しかしインタフェースの変化は好まれない。ここにジレンマが存在する。iOSでいえば、かつて「ホーム画面に戻る」ためだけにあったホームボタンは、今ではマルチタスク切り替えなど複数の機能を割り当てられ、デザイン上の混乱を招いている。それでも、アップルはひとつのホームボタンを維持していくだろう。ひとつのマウスボタンを長いあいだ維持したように。彼らはソフトウェアの混乱を無視し、ハードウェアの統一性を維持した。それも一つの道である。
混乱といえば、ジェスチャー操作の流行もデザインの混乱を招く原因だ。ジェスチャーは慣れている人には便利だが、知らない人にはボタンのようなとっかかりがなにもない。当たり前かもしれないが、いまほど老若男女、大勢の人がIT機器・ITサービスを触れる時代はなかった。これまでならば許されたような不用意なインタフェース・デザインの変更は、今後多くの批判を招くようになるだろう。mixiや”Lion”、Final Cut Pro Xに対する反発は、そのはじまりかもしれない。
ひとつの解決策として、今後インタフェースが機能と切り分けられるということが考えられる。たとえばTwitterにはAPIを利用した無数のクライアントがあって、利用者はそのうち好きなものを選ぶことができる。たとえばスマートフォンでも、シンプルで代々変わらないインタフェースと、マニア向けで次々と新しい機能を組み込んだインタフェースが用意されるようになるかもしれない。これはよくある「ホーム画面をシンプルにするラウンチャー」などとはまったく異なり、シンプル化はOS全体を通じてすべてのアプリで実現されなければならない。そして、何年もその使い勝手を維持していく必要がある。
それだけのことを出来る企業やサービスはそう多くないかもしれない。しかし、出来る者だけが生き残っていくだろう。30年後のコンピュータは、もしかすると今のデザインとそれほど変わらないのではないか。そしてその細部を決まるのは、これから数年の勝負かもしれない。
考えられるアイデア:
インタフェースの保守・管理、現状のインタフェースを維持しながら新しい機能をどう組み込むかは、今後大きなテーマとなるだろう。支援業者の登場も求められる。
スマートフォンやタブレットはすでに十分複雑であり、今後さらなる普及を目指すためには、統一感を持ちながらシンプル化するソリューションが必須である。
インタフェース・デザイン理論は多数あるが、タッチパネルやジェスチャなどを想定した分かりやすい一大理論の登場は大いに期待される。
関連情報
文中のmixiの実名表示トラブルは、当初ごく簡単な告知しかなかったため、大きな混乱を招いた。
Final Cut Pro Xをめぐる批判はEngadgetの記事に詳しい。
iPhoneのホームボタンが担う機能の混乱については一覧が作成されている。
写真:stratic